岩手県の釜石線を走る『SL銀河』(乗車取材レポはこちら)。その牽引機関車「C58239」のメンテナンスの裏側に密着してきました!
東京から2時間半。「JR東日本盛岡車両センターSL検修庫」にやってきました♪ここがC58239専用の"おうち"です!
本日、中心となって案内頂く検修員(けんしゅういん)の藤村信彦さんです。なんとココにあるメンテナンスの道具も作ったんですって!
いよいよ、おうちの中へ…!
おおお!間近で見るとなんと大きいでしょう!しかも一番前の車輪(先輪)がない!そして中では検修員さんたちが、なにやら作業をしています。
1つ1つのパーツがとにかく大きい!
力持ちじゃないと作業できないのかな?と、女性検修員の阿部さんに訊ねると「男女のパワー差?気にしたことはありません。そんな次元の話ではなく、SLのパーツは一人の人間が運べる重さではないですから!」と元気な答えが。
運行中も同乗して見守る!
実際の運行中も「お熱は無いかな?様子がおかしいところはないかな?」と、わずかな声を拾おうと耳を澄まし、手で触れて全身で車体の様子を感じながら見守っているんだそうです。それって、C58239の『お父さんお母さん』ではありませんか!
運行期間中でも、「これはまずいな」という異変を感じたら、大掛かりになってもメンテナンスすることもあるんですって。だから、検修員さんはC58239に異変があるという知らせがあれば全員駆けつけて集合するそうです。
「この子に代わりはいないから!なんとしてでも直してあげないと!」まさにかけがえのない家族です!
その『変な音』も、走っている車両に乗ってベテランの検修員さんから「これが異常音だよ」と教えてもらっても、若手は何度聞いてもなかなか聞き分けられないくらいに僅かで難しいものだそう。とにかく実地で乗った回数、経験を積み重ねないと異変を感じ取る力は身に付かないんですね。
些細な異変を見なかったことにすれば、大きな故障につながってしまう。責任重大!そういうシビアさがSLにはあって、だからこそ手を掛ければ応えてくれるところにSLを整備するやりがいがあるんだそうです。
パーツが大きくても、問題箇所の大きさは…
…目で見てわかりません。指で触ると、皮膚をかすかに引っ掛けるような、人間の指のささくれ程度の引っ掛かりを感じます。
しかも電動では無く、図工の時間に使うような目の細かい紙やすりで手作業で擦っています。ひたすら手のひらで仕上がりの感触を確かめながら。
軸を受けていた部品は非鉄金属といって、鉄を含まない柔らかい金属でできているので、たくさんの引っ掻き傷ができていました。これも削って磨いてメンテナンスします。
ネジ1つからココで作ってるんです!
C58239は1940年生まれ。部品も流通しているわけではありません。
では、SLを整備する上で部品の交換が必要になったらどうする?…ココで部品を作って修理するのだそうです。
町の鉄工所のような設備が並びます。
「大変だけども作れる。」その言葉が胸にずしんときました。そうやって部品の一つ一つを手で作って、磨いて、メンテナンスして、そうしてC58239は走っています。不具合が出ても、その都度作って直して、また走らせてあげることができる。そうやってずっとずっと走っていけるのです。
SLのマニュアルはあるの?
『読めないでしょ?文字一つ取っても何の字かわからないからそこからなの。けど、構造とか直し方が書いてある本はこの当時のものしかないから、調べて解読してだよね。』…本を見てもよくわからないということがわかりました。
検修員さんは感覚を通して教え、その記録をつけ、新しいC58239のマニュアルを書き起こしているそうです。
楽しそうなお部屋も…
おや、カラフルで楽しそうな物が…おぉ、歴代のヘッドマークではありませんか!
外したヘッドマークがお洋服みたいにかけてあります。SLの漆黒のボディに、旅客車のデザインを彷彿とさせるこのキラッキラのヘッドマークが印象的でした。
こちらはC58239見学会や交流会が開催されたときに公開されていて、来てくれた人に深くC58239を知ってもらうためのスペースなんですって。ここからは大きな車体の全体を上から見ることができますよ!
無事に元気に送り出す。日々それだけを考え、その繰り返し。
C58239が走れるのは、ネジ1本まですべてを知っている検修員さんたちと、それを作り出せる設備があってこそなんですね。
検修員のみなさんにインタビューしました
Q:どういう経緯でC58239の検修員さんになったのでしょうか?
藤村検修員:「車両メンテナンス業務に従事する中で東日本大震災を経験しています。津波で水をかぶって電気系統がやられた4台を自分の手で潰すことになり、打ちひしがれました。その後、会社が被災ムードを打破するため『SLを復活させるぞ!』とプロジェクトを立ち上げた時、腹を括って担当になりました。SL復元を担当し、検修の主担当として今に至ります。」
共に検修する検修員さんたち:
「これ1台しか無いから、替わりが存在しないから、絶対に失敗できない日々の検修に魅力を感じました」
「岩手の顔として、走ってるだけで愛されて、手を振ってもらって。一緒に検修員も乗って、その場に立ち会うんですよ?こんな車両、他に無いですから!」
一番若手の阿部さん:「遠野(SL銀河の長時間停車駅)出身で、SL銀河が走ってたりメンテナンスされてるのを沿線の地元の人として見てきました。だから銀河に対する思いは人一倍なので、SL銀河を知り尽くし、存在そのものを支えているこの検修員になりたくて入社したんです」
Q:若手としてどんな所が大変で、やりがいを感じていますか?
阿部検修員:「実際にSLの整備をしてみて不具合がある際、目に見えるものではなく、わずかな音や煙の状態など感覚的なものが多いため理解するのがとても難しいです。やりがいは、SLに地域の方々が手を振ってくださることです。中には汽笛の音を聞いて急いで家からでてきてくださる方もいて、このSLは本当に地域の方々に愛されているなと感じています。」
Q:一緒に整備する若い仲間に対して、どんな思いがありますか?
藤村検修員「SLの整備マニュアルが一部しか存在しないなか、伝える側としても非常に苦労しているところではありますが、思いをもって整備することによって故障のない車両の提供ができることを伝えています。本日(取材日)まで車両故障による運休はゼロ。乗ってくださるお客さまにとって、当りまえのこと。」
Q:歴史ある車体を整備するということは、どのような想いがありますか
藤村検修員:「東日本大震災からの復興のシンボルとして復活した、このC58239には岩手県民として、特別な思いがあります。当時の日本全体が、特に被災している方々が沈んでいる状況を、このSLが走ることでなんとか笑顔にすることが、我々の使命だと思い、これまで整備しています」
阿部検修員:「C58239は国鉄の時に岩手県営運動公園(交通公園内)に静態保存され、現在のSL銀河として運行するまでに様々な人が関わり大切に整備されてきました。これからもC58239がお客さまを乗せた車両を安全に牽引するためにも整備に携わる我々が今までの思いを受け継ぎ、細心の注意をもってSLに向き合わないといけないと感じています。」
Q:この仕事の誇りはなんですか?
藤村検修員:「岩手でSLが走っていること!浴線のみんなの笑顔!!そのSLをプライドを持って整備していること!!」
阿部検修員:「SLという巨体を自分たちの力で走らせているという実感があるところです。SLは走行するれば振動や音でとてつもない存在感で多くの人を魅了しますが、我々検修員が少しでも手を抜いたら簡単に走行できなくなってしまいます。またSLには我々だけでなく運転士や多くの社員が携わります。我々が一丸となってSLに向き合うため、SLが地域の方々が喜んでいる様子を見ると、それに関われることを誇りに思います。」
C58239が元気よく走るのは専門の検修員さんという存在があるから!
検修員さんはSLの構造を知って、『五感』を使って具合が悪い部分が無いかを点検して、壊れたり古くなった部品は"C58のお家"の工房で製作していました。
検修員さんが常に寄り添って、SLは人と一緒に走っているんですね。
紙のマニュアルだけでは伝えられない技があるから、常に次の世代の検修員さんを育て続けることも、とても大事なことなのだということが分かりました。
「SL銀河」9年目のシーズンは4月9日から
SL銀河は9年目のシーズンを控えています。検修員さんはそれぞれ、「その前から関わっていた」・「9年目」・「3年目」、そして「1年目を終えたばかり」。検修員さんの年代の幅と層の厚さに驚かされます。
岩手のC58239は、昔を懐かしむノスタルジーの機体ではなく、今の時代の人の思いと一緒に走って新たにその魅力を伝えています。
リンク
【乗車レポ】SL銀河に乗ってSL銀河ルームにも泊まって宮沢賢治の世界観に浸ってきた
東日本大震災からの復興シンボル、C58239率いる「SL銀河」の試運転が走りました。
— 鉄道新聞®︎ (@tetsudoshimbun) March 11, 2022
(撮影日:2022/3/10) pic.twitter.com/ooaJrBTCnL